アサヒ飲料株式会社
本部研究開発本部 研究開発戦略部 研究企画グループ
小杉亘氏
健康志向の高まりとともに、飲料市場で注目を集める炭酸水。特に近年は、その爽快感だけでなく、疲労回復やリフレッシュ効果への期待が高まっています。今回は、アサヒ飲料で炭酸水の価値向上の為の研究や啓発を担当している小杉亘さんに、炭酸水市場の変化と最新の研究について詳しく伺いました。
健康志向の高まりとともに、飲料市場で注目を集める炭酸水。特に近年は、その爽快感だけでなく、疲労回復やリフレッシュ効果への期待が高まっています。今回は、アサヒ飲料で炭酸水の価値向上の為の研究や啓発を担当している小杉亘さんに、炭酸水市場の変化と最新の研究について詳しく伺いました。
―まずは小杉さんのキャリアについてお聞かせください。
小杉:私は入社以来、飲料パッケージ開発の部門や海外飲料企業との協業などに携わってきました。そのため、海外では食事の時に炭酸水を飲む習慣があることを知りました。一方、日本では以前はあまり馴染みがありませんでしたが、10年ほど前から炭酸水を飲む人が急に増え始めてきました。当社の製造量が伸びていくのを目の当たりにし、「炭酸水って、実は何かすごい力を持っているかもしれない」と強く関心を持つようになりました。
―炭酸水の変遷を見てこられたのですね。
小杉:はい。生活様式が変わっていく中、2016年に商品やブランド価値を高める取組をしている部署に異動になり、炭酸のもつ可能性に魅了され、特に無糖炭酸水の価値向上に情熱を注ぐようになりました。健康志向の高まりとともに、糖質ゼロでありながら満足感のある飲料として、炭酸水の新たな価値創造に取り組んでいます。
―アサヒ飲料にとって炭酸水はどのような存在なのでしょうか。
小杉:アサヒ飲料には100年以上続く3つのブランドがあり、そのうちの2つが炭酸関連のブランドです。特にウィルキンソンは1904年の誕生以来、日本の炭酸水市場を牽引してきた歴史あるブランドです。創業者のジョン・クリフォード・ウィルキンソンが、宝塚の地で湧き出る天然水に着目し、その水質の良さを活かして炭酸水の製造を始めたのが始まりです。これらの100年ブランドを大切に守り、さらに発展させていくことが私たちの使命です。単なる商品としてだけでなく、日本の飲料文化の重要な一部として、次の100年に向けて新たな価値を創造し続けていきたいと考えています。
―私たちも、普段からお世話になっているブランドですので、次の世代にも伝えていきたいですよね。
小杉:特にウィルキンソンは、120年にわたり、日本の飲料文化に深く根付いてきました。大正、昭和初期には提供が始まりましたが、まだまだ一般家庭に普及とはならず、1980年代にはハイボールブームと共に割材として定着していきました。ようやく2010年代以降は健康志向の高まりとともに単体での飲用も増加しています。特に近年は、健康志向の高まりとともに、その価値が再評価されています。カロリーゼロ、糖質ゼロという特徴に加え、爽快感や清涼感を提供する飲料として、新たな価値を見出されています。
―その歴史の中で、炭酸水市場はどのように変化してきましたか。
小杉:炭酸水市場の成長は、大きく3つの段階を経ています。
第一期(1904年~1970年代)
創業期から高度経済成長期にかけては、主に高級飲食店での提供が中心でした。洋食文化や多くのバーで普及とともに、特別な飲み物として認知されていました。
第二期(1980年代~2000年代初頭)
ウイスキーのハイボールなど、割材としての需要が急増。家庭での飲用も少しずつ一般化し始めました。
第三期(2010年以降)
健康志向の高まりを受け、単体での飲用が増加。当社の調査では、この10年で市場規模は2倍以上に成長していると推測しています。特に2011年以降、健康意識の高まりや糖質制限の流れを受けて、大きく伸長しています。また、コロナ禍を経て、在宅時間の増加とともに家庭での消費も拡大しました。
―確かに、炭酸水をペットボトルで飲むようになったことは、最近に感じられますね。
小杉:2010-2011年頃に大きな転換点がありました。それまでお酒の割材が主流だった炭酸水市場に、小型のペットボトルを導入したことをきっかけに、炭酸水を直接飲む新しいスタイルの楽しみ方が広まっていったのです。販売当初、炭酸飲料の棚ではなくミネラルウォーターの売り場に配置することで、水分補給用の飲料としての新たな認知を獲得しました。
―なるほど、売り場が変わったので目にするようになったのですね。
小杉:消費者に無糖の炭酸飲料であることを理解してもらう取組も経て、市場は急速に拡大しました。健康意識の高まりを受けて、著しい成長を遂げています。無糖に加えて、カフェインフリーという特徴も、健康志向の消費者のニーズと合致し、この10年で市場規模は2倍以上に成長しました。
―アサヒ飲料として、今後の市場はどのように見ているのですか
小杉:まだまだ成長の余地があると期待しています。2025年6月当社の調査では、炭酸水の飲用経験がない人が約45%存在することがわかっています。つまり、まだ半数近くの方々に、炭酸水の魅力を伝える機会があるということです。
―現在は、どの年代の人が主な消費者なのでしょうか。
小杉:従来は40~50代のビジネスパーソンが中心でしたが、現在は20~30代の若い世代にも徐々に広がっています。特に女性の間で、カロリーゼロで後味すっきりという特徴が支持されています。美容や健康への関心が高い層から、炭酸水を日常的に飲用する習慣が広がっているのです。
―疲労回復、リフレッシュ効果の視点での研究に注目されたきっかけは何だったのでしょうか。
小杉:消費者調査で「仕事や運動後のリフレッシュに飲用している」という声が多く聞かれたことがきっかけです。また、在宅勤務の増加で、日中のリフレッシュニーズが高まっていることも背景にあります。オフィスワーカーの方々から、「午後の眠気対策に効果的」「気分転換できる」といった声が多く寄せられるようになりました。そこで、これらの効果を科学的に検証し、新たな価値提案ができないかと考えました。これまで大阪公立大学との共同研究の結果から、オフィスワークを想定した精神的疲労をともなう作業中に炭酸水を飲用することで、眠気の予防や、やる気の低下を抑えられることなどが明らかになってきています。
―日本リカバリー協会との共同調査では、興味深い発見がありましたね。
小杉:はい。特筆すべき発見が複数ありました。まず、2023年に実施された「ココロの体力測定」の調査結果では、「炭酸飲料を飲む」という抗疲労行動が157項目中で上昇率第3位にランクインしました。これは非常に注目すべき結果です。
休養・抗疲労(疲労解消)行動の 実施上昇率上位10位
(全国、男女計)単位:%、倍
出典:「アサヒ炭酸ラボ」
―私も、分析をしていて炭酸水が抗疲労行動として定着をしていたのを驚きました。具体的な数字を見ると、炭酸飲料を抗疲労行動として選ぶ人の割合は、2019年の5.6%から2021年には8.6%、2023年には10.8%まで増加しています。研究結果が、大規模調査で顕在化された形ですね。
小杉:そうですね。調査の結果から、実社会ではすでに一定数の方が炭酸水を抗疲労のソリューションとして活用されていることはとても興味深い結果でした。今後も炭酸水の効用について情報発信をしながら、より多くの生活者にその魅力を伝えていきたいですね。デスクワークの合間などで、手軽にできるリフレッシュ行動として炭酸飲料、特に無糖でカフェインフリーの炭酸水を活用していただきたいと考えています。
【プロフィール】
アサヒ飲料株式会社 研究開発本部 研究開発戦略部
小杉 亘氏
最近の興味領域は、抗疲労ソリューションとしての炭酸水の可能性に関心を持っています。炭酸刺激による爽快感や気分転換といった経験的に感じていたことを、科学的に明らかにしていくことで、これまで炭酸水を飲用されてない方にも関心を持っていただくきっかけをつくっていきたいと考えています。
アサヒ炭酸ラボ:https://www.asahigroup-holdings.com/rd/library/tansan/