休養の日

リカバリー市場6兆円到達の真相に迫る

なぜ今、リカバリー市場に注目するのか。2024年、リカバリー市場が6兆239億円を突破したというリリースは、産業界に大きなインパクトを与えました。2023年の5兆4375億円から1.1倍の成長を示すこの急成長の背景には何があるのか。私たち休養ガイド編集部は、市場拡大の真相に迫るべく、日本リカバリー協会の担当者に取材を行い、データから見える傾向をお聞きしました。

プレスリリース:リカバリー市場規模2024

疲労大国ニッポンの現状

―まず、リカバリー市場拡大の社会的背景についてお聞かせください。

協:日本人の約8割が何らかの疲労を感じているという調査結果が示すように、疲労は現代社会の重大な課題となっています。2019年の4兆175億円から2024年までの5年間で約1.5倍に成長したことからも、この課題の深刻さが伺えます。特にコロナ禍以降、テレワークの普及によるワークライフバランスの崩壊、デジタル疲労、そして経済的不安によるストレスの増加など、疲労の要因は複雑化しています。

図表:リカバリー市場規模経年推移(億円)

―その社会課題に対して、市場はどのように反応しているのでしょうか?

協:2024年のリカバリー市場が6兆円を超えた背景には、この「疲労」という社会課題に対する、企業と個人双方からの積極的なアプローチがあります。特に注目すべきは、従来の「休養=何もしない」という概念から、「積極的な休養投資」への意識変革が起きている点です。2024年の市場分析によると、食関連が2兆5042億円と最大のシェアを占め、次いで癒し関連が1兆1109億円と続いています。特に食関連は前年比1.19倍と高い成長率を示しており、住関連も1.17倍と成長しています。

企業の健康投資が市場を牽引

―企業側の動きについて、具体的に教えていただけますか?

協:健康経営銘柄の選定企業数が増加しているように、企業の健康投資への関心は確実に高まっています。健康経営・福利厚生に関わるサポート分野は866億円の市場規模となっており、2019年から2.66倍という著しい成長を遂げています。具体的には、仮眠室の設置、休養時間の確保、そして休養学セミナーの導入などが活発化しています。

―その背景にはどのような要因があるのでしょうか?

協:徐々にですが、生産性向上への直接的な効果が認識され始めたことが大きいですね。当協会の調査では、適切な休養支援を導入した企業の多くが従業員の生産性向上を実感しています。また、人材獲得競争が激化する中、福利厚生としての休養支援は重要な差別化要因となっています。

個人の健康リテラシー向上がもたらす変化

―個人の休養に対する意識も変化しているとのことですが。

協:情報・センシング関連のリテラシー分野は1769億円の市場規模となり、2019年から2.92倍という驚異的な成長を遂げています。個人が自身の健康状態を可視化・数値化し、積極的に管理しようとする傾向が強まっています。

―それは具体的にどのような形で表れているのでしょうか?

協:例えば、睡眠カテゴリーは7868.4億円(前年比1.09倍)と着実に成長しており、睡眠計測デバイスの利用者も増加しています。また、「休養への投資」を積極的に行う20-30代が増加しているのが特徴です。

図表:リカバリー市場規模 カテゴリー別(億円)

テクノロジーがもたらす市場革新

―テクノロジーの進化は市場にどのような影響を与えていますか?

協:AIやIoTの発展により、個人の疲労状態をリアルタイムで測定し、最適な休養方法を提案するソリューションが登場しています。例えば、バイタルデータと生活習慣を組み合わせた予防的サービスの市場も成長しています。

―今後、特に注目される技術領域はありますか?

協:ウェアラブルデバイスとAIを組み合わせた「パーソナライズド・リカバリー」の分野です。個人の生体リズムや活動パターンに基づいて、最適な休養タイミングと方法を提案するシステムの開発が活発化しています。2030年には、この分野だけでもある程度の市場規模になると予測しています。

2030年に向けた展望

―最後に、リカバリー市場の今後についてお聞かせください。

協:2030年には市場規模が約14.1兆円(2024年比2.4倍)に達すると予測しています。特に注目すべきは運動関連市場で、現在の364億円から2030年には1890億円(5.19倍)という驚異的な成長が見込まれています。また、遊ぶ・学ぶ関連(3.52倍)、衣関連(3.51倍)、住関連(3.13倍)も大きな成長が期待されています。既に大きな市場規模を持つ食関連は5兆5345億円(2.21倍)、癒し関連は2兆5026億円(2.25倍)まで成長すると見込んでおり、「疲労回復」という従来の枠を超えて、「予防的休養」「生産性向上のための積極的休養」という新しい概念が市場を牽引していくと考えています。また、環境配慮型の休養ソリューションや、地域資源を活用したウェルネスツーリズムなど、SDGsの文脈でもリカバリー市場は重要な役割を果たすと考えています。

―本日は詳しいお話をありがとうございました。