休養の日

『休養学』誕生秘話と社会的影響

『休養学』誕生秘話と社会的影響
~東洋経済新報社×片野先生 特別対談~

偶然の出会いから始まった『休養学』は、発売からわずか1年半で19万部を超えるベストセラーとなりました。「休むことは寝ることではない」という新しい休養の捉え方は、多くの人の目を覚まさせ、深い紺色の表紙に赤いバツ印が印象的な本書は、ビジネスパーソンから学生、主婦まで幅広い層の支持を集めています。この度、発売元の東洋経済新報社と日本リカバリー協会の全面協力のもと、同書の制作に携わった編集者、プロモーション担当者、そして著者である片野先生による特別対談が実現。なぜこれほどまでに人々の心を掴んだのか。企画誕生の裏話から社会への影響まで、キーパーソンたちが制作秘話を語り合います。

《後編》を読む

企画の偶然の出会いから始まった『休養学』

―『休養学』の企画のきっかけについて教えていただけますか?

高橋(編集者):実は、ある女性週刊誌の記事がすべての始まりでした。その雑誌で休養学の特集を見かけたんです。数ページのボリュームで、よくできた記事でした。休むことは寝ることではないという考え方や、7つの休養法など、イラストも交えて分かりやすく解説されていて。いち読者として非常に興味深く読みました。

―その時点で書籍化を考えられたのですか?

高橋:まず「これは面白い」と思って、すぐにアマゾンで調べたんです。その時点では別の出版社から『休養学基礎』という専門家向けの本が出ているだけで、一般向けの本は見当たりませんでした。ネットで調べてみると、すでに多くの企業が注目していることも分かり、「自分も遅かったな」と思いつつ、これは本にできるのではと考えました。

片野先生:最初に東洋経済さんから連絡をいただいた時は、正直、嘘かと思いました(笑)。もしくは、有料で本を作らされるのではないかと。でも高橋さんが会社でキックオフミーティングを開いてくださって、これは本物だと安心しましたのを覚えています。

(撮影:尾形文繁)

想定を超えた読者層の広がり

―当初想定されていた読者層はどのような方々でしたか?

中田(担当):東洋経済の本ですから、まずはビジネスパーソンをターゲットに考えていました。ただ、実際には学生さんや主婦層など、想定以上に幅広い層に読んでいただけました。

高橋:特に印象的だったのは、読者の男女比が半々だったことです。どちらかというと女性読者が多いのではと想像していたので、これは意外でした。また20代から30代の若い世代、特に若い男性からの反響が大きかったですね。

片野先生:データを見ると、20代前半から30代の現役世代に特に読んでいただいているとのことですが、若い世代の方が健康投資への意識が高く、40代、50代の方々はまだまだ「無理をして働いてしまう」傾向が強いようです。

ベストセラーとなった要因

―『休養学』がベストセラーとなった要因について、お聞かせください。

高橋:この本が売れた最大の理由の一つは、表紙のデザインだと思っています。それまでの休養関連の本は実用書コーナーに置かれることが多かったのですが、この本は教科書や学術書のような装丁にしました。紺色を基調とした落ち着いたデザインで、書店員さんがビジネス書コーナーに置きやすい雰囲気を意識しました。

中田:帯の高さも通常の倍以上あって、そこに赤いバツ印を入れるなど、視認性を高める工夫をしました。また、営業部では店向けに疲労あるあるPOPや薬箱型の販促ツールを作成し、店頭での訴求も強化しました。さらに、重版の際には帯文を更新し、10万部突破などの情報も盛り込んでいきました。

―販促面での特徴的な取り組みはありましたか?

中田:メディア展開では、片野先生に数多くの取材にご協力いただき、継続的な露出を確保できました。また、新聞広告も複数回出稿し、これが意外な反響を呼びました。例えば、片野先生のご家族が朝日新聞の広告を見て驚いて連絡してきたというエピソードもありますね(笑)。

高橋:デジタル面では、読者のSNS投稿がきっかけで、Amazonの総合ランキング2位まで上昇し、一時は品切れになるほどの反響がありました。また、楽天Koboの試し読み設定を工夫するなど、電子書籍での展開も意識しました。

―時期的なタイミングも影響したそうですね。

高橋:そうですね。昨年5月の発売以降、まず5月病の人たちに手に取っていただき、その後は夏バテの時期、さらに秋バテ、冬バテと、年間を通じて「○○バテ」という文脈で注目されました。実は私も「秋バテ」や「春バテ」という言葉を知らなかったのですが、季節ごとに疲れを感じる人が多く、それが継続的な売上につながったと考えています。

―内容面での工夫について、もう少し詳しく教えていただけますか?

高橋:疲れている人が読む本ということで、2ページ完結を基本に、どこからでも読める構成にしました。専門用語もできるだけ平易な表現にして、読みやすさを重視しました。また、土曜日始まりの手帳を提案するなど、実生活にすぐに活かせる具体的なアイデアを盛り込んだことも、読者の共感を得られた要因だと思います。

片野先生:特に反響が大きかったのは、「疲れは発熱や痛みと同じ三大アラート」という考え方です。熱があれば休むのに、疲れは我慢してしまう。その矛盾に気づいていただけたことは大きかったですね。

―他社とのコラボレーションも展開されたそうですね。

中田:はい。代表的なものとしてJR東海さんの『そうだ 京都、行こう』キャンペーンのコラボレーションがあります。広告代理店から提案を受けて実現したのですが、休養という切り口で旅の魅力を伝えるタイアップ記事を展開し、新しい読者層との接点を作ることができました。

社会への影響と反響

―社会的にどのような影響があったとお考えですか?

高橋:日本は元々、疲労に敏感な国民性があります。栄養ドリンクなどの健康食品の普及を見ても分かります。ただ最近は、肉体労働だけでなく精神的な負荷が増え、さらに気象変動の影響も加わって、休養の重要性が一層高まっているように感じます。

中田:最近では有名なビジネス誌などでも、様々な雑誌で休養特集が組まれるようになりました。「休養」という言葉が、一つのバズワードとして定着してきた感があります。

片野先生:読者からは「休み方を教わっていなかった」という気づきの声や、「甘いものが疲労回復に効くという俗説が間違いだった」といった発見の声を多くいただきました。

―後編に続く―

【プロフィール】

高橋 由里
早稲田大学政治経済学部卒業後、東洋経済新報社に入社。自動車、航空、医薬品業界などを担当しながら、主に『週刊東洋経済』編集部でさまざまなテーマの特集を作ってきた。2014年~2016年まで『週刊東洋経済』編集長。現在は出版局で書籍の編集を行っている。