休養の日

リカバリー行動トレンド2025 選定会議【前編】

新しい休養の形を探る ~現代社会における"休養"の再定義~

コロナ禍を経て、私たちの生活は大きく様変わりしました。「どうやって休むのが一番いいの?」という素朴な疑問から、全国10万人の方々へ「リカバリー行動の調査2025」を実施しました。すると、「休養」の形が、従来の「ただ休んで疲れを取る」というイメージから、もっと積極的で多彩なものに変化していることが分かってきました。本調査では、7つの休養タイプ(休息・運動・栄養・親交・娯楽・造形想像・転換)から、現代人の休養行動を多角的に分析。特に健康意識の高い層で顕著な変化が見られ、新たな休養スタイルの萌芽が確認されています。そこで今回は、休養学で日本をリードする片野秀樹先生と、この大規模調査で見えてきた最新の休み方トレンドと、科学的に効果が実証されている上手な休養法について、2回に分けてじっくりとお話を伺っていきます。

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はじめに

―本日は、10万人調査から見えてきた「リカバリー行動トレンド2025」について、片野先生にお話を伺います。まず、従来型の休養方法に大きな変化が見られていますが、この点についてどのようにお考えですか?

片野先生:ええ、非常に興味深い変化が起きていますね。特に注目すべきは、「休む」という行為自体の質的な変化です。データを見ながら、具体的に見ていきましょう。

 

休息タイプの新潮流

―まず「寝る」という行動が前年比0.89倍、「寝転んでリラックス」が0.82倍と減少しています。特に健康意識の高い層での「寝る」実施率が0.94倍と低いのが特徴的です。

片野先生:そうですね。これは単に「休養離れ」が起きているわけではありません。むしろ、より積極的で質の高い休養を求める傾向の表れだと解釈できます。特に興味深いのは、テクノロジーを活用した新しい休養方法の台頭ですね。

―確かに、リカバリーウェアの市場は2年で1.7倍に成長し、健康意識の高い層ではAI搭載家電の使用が10.66倍と著しい伸びを示しています。

片野先生:ただし、ここで強調しておきたいのは、テクノロジーは従来の休養方法を「補完」するものであって、「置き換える」ものではないということです。質の高い睡眠とテクノロジーの活用を、いかにバランスよく組み合わせていくかが重要になってきます。

運動タイプの新展開

―運動面では、「ぶらぶら歩く」という行動が今後注目を集めると予想しています。

片野先生:ええ、これは非常に重要な変化です。目的を持たない散歩、つまり「お散歩文化」の確立は、これからの休養を考える上で重要なキーワードになると考えています。

―健康意識の高い層での実施率が高いのが特徴的ですが、なぜこのような行動が支持されているのでしょうか?

片野先生:大きく3つの要因があると考えています。1つ目は、「マインドワンダリング効果」です。目的を持たずに歩くことで、普段の思考パターンから解放され、創造性が高まることが分かってきています。

―なるほど。2つ目は何でしょうか?

片野先生:2つ目は「環境との対話」です。スマートフォンを見ながらではなく、周囲の環境に意識を向けながら歩くことで、季節の変化や街の音、空気の温度など、身体感覚を通じた環境との対話が、深いリラックス効果をもたらすんです。

―最近では「森林浴」ならぬ「都市浴」のような行動ですね。

片野先生:その通りです。そして3つ目が「適度な運動強度」です。ぶらぶら歩きは、心拍数を過度に上げることなく、脂肪燃焼に最適な有酸素運動のゾーンをキープできます。また、歩くペースを自分で調整できるため、その日の体調に合わせた運動量の調整が容易なんです。

―今後の調査でもデータを見ていきたいですね。

片野先生:特に興味深いのは、この効果が年齢や性別を問わず見られるのではないかと思っています。また、一人での散歩に加えて、最近では「ぶらぶら友達」という新しいコミュニティも生まれています。目的を持たずに歩くことで、会話の質も変わってくるんですね。

 

栄養タイプの科学的進化

―栄養面では、より科学的なアプローチへの関心が高まっているようですね。健康意識の高い層では、たんぱく質系飲料・食品が7.12倍、アミノ酸系が10.45倍という驚きの数字が出ています。

片野先生:ここで重要なのは、栄養学自体が大きなパラダイムシフトを迎えているという点です。従来のカロリーベースの考え方から、分子栄養学的なアプローチへの移行が進んでいます。

―具体的にはどのような変化なのでしょうか?

片野先生:例えば、ATP(アデノシン三リン酸)の効率的な生成やミトコンドリアの活性化など、より細胞レベルでの栄養摂取効果に注目が集まっています。これは休養の質を考える上で、非常に重要な視点となるでしょう。

親交タイプの再発見

―人とのつながりについても興味深い変化が見られます。家族との時間(1.09倍)、友人との外出(1.26倍)など、対面でのコミュニケーションが見直されているようですね。

片野先生:その通りです。デジタル化が進む中で、逆説的にリアルな人との交流の価値が再評価されているんです。特に健康意識の高い層での友人との食事(1.82倍)、外出(2.25倍)という数字は、非常に示唆的ですね。

―この傾向は今後も続くとお考えですか?

片野先生:はい。むしろ加速すると考えています。オンラインコミュニケーションが一般化すればするほど、実際の対面での交流がもたらす心理的な充足感や安心感の価値は高まっていくでしょう。これは現代社会における「本質的な休養」の一つの形と言えるかもしれません。また、このコミュニケーションという分野にもテクノロジーが進み、親交を生み出す対話型のロボットなども今後注目していきたいです。