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休養学の豆知識
「すごく疲れている」「まあまあ疲れている」—どちらかに当てはまる方が多いのではないでしょうか。実は、このような問いかけをする理由があります。日本リカバリー協会が実施している全国10万人を対象とした大規模調査によると、ここ数年、全体の約8割もの人々が疲労を抱えて生活していることが判明しているのです。
出典:日本リカバリー協会「リカバリー(休養・抗疲労)白書2024」
この数字の深刻さを理解するために、少し過去を振り返ってみましょう。1999年、厚生省が60代までの就労者を対象に実施した疲労度調査では、「疲れている」と答えた人は就労者の約6割でした。つまり、この約25年の間に、疲れている日本人の割合は6割から8割へと大幅に増加したことになります。
出典:日本リカバリー協会「リカバリー(休養・抗疲労)白書2024」
さらに詳しく見ていくと、男女差も明らかになっています。男性の76.8%が「疲れている」あるいは「慢性的に疲れている」と回答しているのに対し、女性は80.1%と、さらに高い数値を示しています。全体の平均は78.4%となり、まさに日本人の大多数が疲労を抱えている状況が浮き彫りになっているのです。
出典:日本リカバリー協会「リカバリー(休養・抗疲労)白書2024」
この深刻な疲労問題は、社会経済にも大きな影響を及ぼしています。2004年の厚生労働省の発表により、驚くべき事実が明らかになりました。慢性疲労症候群—生活に支障をきたすような疲労が6カ月以上続く状態—の人々がもたらす経済損失が、医療費を除いても約1.2兆円にも及ぶというのです。これは当時、疲れている人の割合が6割だった時点での数字です。現在の8割という状況では、損失額はさらに膨らんでいることは想像に難くありません。
なぜこのような巨額な経済損失が生じるのでしょうか。その主な要因は、疲労による労働生産性の低下にあります。最近では、この問題を表す指標として「プレゼンティーズム(presenteeism)」と「アブセンティーズム(absenteeism)」という概念が注目されています。
プレゼンティーズムは日本語で「疾病就業」と訳され、体調が悪いにもかかわらず出社している状態を指します。頭痛や胃腸の不調、軽度のうつ、花粉症などのアレルギー症状など、無理をすれば出社できる程度の体調不良による職務遂行能力の低下がこれにあたります。参考までに、アメリカではプレゼンティーズムによって年間約1500億ドル(約21兆円)もの損失が発生しているとされています。
一方、アブセンティーズムは「病欠」を指し、プレゼンティーズムがさらに進行して出社できない状態を意味します。このような状態でも企業は給与を支払い続けますが、生産性は上がらないため、経済的な損失として計上されることになります。
このような深刻な状況の背景には、日本の健康づくり対策における「休養」の軽視があると考えられます。これまでの国民健康づくり対策を振り返ると、第1次では「栄養」に、第2次では「運動」に重点が置かれ、「休養」が本格的に取り上げられたのは第3次からでした。
栄養や運動については、学校教育での取り組みや専門的な研究機関の設置など、充実した対策が講じられてきました。しかし、休養に関する具体的な目標が設定されたのは第4次からで、それも「睡眠による休養不足の割合を減らす」「週60時間以上の過労働者を減らす」という限定的なものでした。
国民健康づくり対策が始まってから約50年が経過した今でも、休養の重要性は十分に認識されているとは言えません。この現状を改善し、健康的な社会を築くためには、休養に関する正しい知識と実践方法の普及が急務となっています。私たちは、この深刻な疲労問題にどう向き合い、どのように解決していけばよいのでしょうか。その答えを、これからの講座で一緒に探っていきましょう。