日本における疲労研究の始まりとは 《 後編 》

「慢性疲労症候群」をご存知ですか? さまざまなストレスがきっかけとなって、ある日突然、全身が原因不明の激しい倦怠感・強度の疲労感などに襲われ、健全な社会生活が送れなくなるという疾患です。
日本における疲労の本格的医学研究がどのように発展してきたのか、日本疲労学会の理事長であり、疲労研究を最前線で推進する、理化学研究所生命機能科学センターの渡辺恭良さんにお話をうかがいました。

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疲労のメカニズムに対する注目

同じ頃、イギリス、オランダ、ベルギー、アメリカなどの研究者も慢性疲労症候群についての研究を行っていて、国を超えてやり取りしていましたが、日本の我々は、慢性疲労症候群の研究をしているのに、疲労そのもののメカニズムが良くわかっていないということを非常に疑問に思いました。誰しも経験する「疲労」に、医学・医療の目が十分に注がれていないことに驚きました。

日本でも現在の疲労学会の前身の一つである疲労研究会がありましたが、登山とスポーツのパフォーマンス向上が主な研究対象でした。一方で、労働衛生の観点からは、労働衛生研究所も残業時間など勤務実態と疲労・過労についての研究を行っていましたから、医学的に体の中を見る疲労の研究は、実はほとんどなかったのです。内科学の部厚い教科書がありますが、疲労倦怠感についてはたった1ページくらいで、対処の仕方、治療の仕方も体系的にはほとんど載っていませんでした。

ここ10年で疲労研究は加速し現在へ

ちょうどその頃、当時の科学技術庁長官だった田中真紀子さんが、生活者ニーズに応えるものに科学技術分野の予算を重点配分する方針を示していました。我々は疲労の研究を提案したのですが、論文発表に留まらず、疲労や過労に対する実効性のある対策をきちんとやるのであれば採択しましょうと。そこで26の大学等の研究機関と一緒に多角度な疲労科学・医学の研究を始めたことで、日本での疲労研究は加速。大人だけでなく、子どもの学習意欲と疲労など、さまざまな人たちのさまざまな疲労について幅広い研究が行われてきました。

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ポストコロナの時代、制限の強い生活や経済的な困窮による疲労の蔓延だけでなく、新型コロナウィルスに感染した人で、感染後慢性疲労症候群の診断がつく人も増えているそうです。
現代人と疲労はもはや切り離せないものですが、「予防しかり、対策しかり、重要なのはソリューションです」(渡辺さん)。疲労の研究はまだ始まったばかり。今後さらに多くのことが解明されると同時に、私たちの毎日に役立つさまざまなハードやソフトの登場に期待が高まります。

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この記事のリカバリ用語

  1. 慢性疲労症候群

  2. 日本疲労学会