神奈川県の未病への取り組みと今後の展望《後編》

2024年の調査*では全国的に元気な人が減少する中、最も減少率が低かった神奈川県。
神奈川県では、健康と病気の間を分けるのではなくグラデーションの「未病」という考え方に注目しています。
未病産業の創出と、健康と医療の連続性、個人の行動変容の重要性。
「未病」に取り組む神奈川県の政策と今後の展望について、神奈川県政策局 いのち・未来戦略本部室 未病産業担当部長の牧野義之さんにお話を伺いました。

*ココロの体力測定 2024
有職者におけるコロナ前後の健康状況を比較 働くシニア世代で元気な人が大きく減少 未病に取り組む神奈川県では減少率が最も少ない結果に
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000085299.html

《前編》を読む

個人のリテラシー向上と未病産業の創出

―神奈川県が未病の改善に取り組むにあたって、個人のリテラシー向上が重要とされていますが、その具体的な内容について教えてください。

はい、未病の改善には個人のリテラシー向上が欠かせません。ターゲットに合わせた層別化したアプローチを意識した施策展開を進めています。未病の改善におけるポイントは以下の5つです。
まず、一つ目は、未病の「見える化」と希望をセットで提供することです。見える化だけでは不安を与える可能性があるため、希望も同時に提供します。その希望となる究極的な最新治療が再生細胞医療です。

―他にはどのような取り組みがありますか?

二つ目は適正な良い未病産業の創出です。ユーザーの立場で取り組むことが重要で、研究会などのネットワークを通じて異分野交流やプロジェクト立案を進め、新しい商品やサービスを地域で実証し、エビデンスが得られたものを未病ブランドとして認定という一気通貫の施策展開イメージがあります。
三つ目は、個別企業では取組み困難であるが地域の産業力強化で共通的に必要となる機能、例えばデータや評価等の非競争領域の機能については、大学等と連携しながら公的な支援機能を構築するとしています。

―個人のリテラシー向上についてはどうでしょうか?

四つ目のポイントは、個人のリテラシー向上です。健全な未病産業を育てるためには、一人一人が色々な意味で賢くなる必要があります。これは簡単ではないことですが、非常に重要です。最後の五つ目のポイントが、未病に持続的に取り組むことで、科学と技術、そして社会のイノベーションを推進していくということです。この三つのイノベーションについては、昨今、国でも科学技術に人文社会学の取組を重視してきた流れとも一致します。
これらについては、11月に開催の「ME-BYOサミット神奈川2024」で議論しているところです。

未病で大事にしている考え方

―未病の改善において、大事にしている考え方について教えてください。

未病の基盤となるのが未病指標です。これは疾患リスクというよりも人が持つ機能に着目しており、具体には、生活習慣、認知、生活機能、メンタルヘルスストレスの4領域を設定しています。未病指標は、この4領域とトータルバランスを意識していく普及啓発ツールとしても捉えています。未病指標は、「マイME-BYOカルテ」(※1)という県の公的アプリでこれを実装し、未病の具体的な概念を広めています。

―未病の概念は、各ターゲットにあわせて具体的にはどのように広めているのですか?

各層に向けた広報活動として、例えば、子どもには「ミビョーマン」(※2)を使って未病を普及し、勤労層には糖尿病対策、女性には「ME-BYO STYLE」(※3)といったコンテンツを提供しています。高齢者にはフレイル対策を行い、未病の改善の考え方の普及と実践を目指しています。

 

休養市場規模と産業の創出

―未病の中での休養の役割について教えてください。

神奈川県の未病産業研究会の休養分科会では、休養市場規模のデータを提供しています。これらのデータは、抗疲労やストレスリカバリーに関するベンチャー企業が活用しています。産業界と連携し、個人がどのように取り組むかが重要です。行政がリーダーシップを取るのではなく、産業主体での調査結果を活用しています。

―具体的な休養の取り方についても教えてください。

日常生活において、短時間でもインターバル的に休養を入れることが重要です。質の良い睡眠を取ることはもちろんですが、起きている時間に休養を取り入れることで、個人の健康や企業の健康経営にも寄与します。また、陸上の長距離練習などでも、走り終わったらいきなり座って休むのではなくて、ジョギングや歩行しながら休めたりしますよね。そういう質を意識した取組みも大切だと思います。

―未病産業の創出についても詳しく教えてください。

人々が未病改善を効果的に進めるためには、未病産業が貢献していくことが大切です。未病産業研究会を通じて、適正で良い未病産業が創出され成長していくよう期待しています。また、新しい商品やサービスの価値や使ってみないとわからないですし、使ってからのニーズを企業にフィードバックすることも大切なので、未病リビングラボの取り組みを通じて、地域で実証し、大学等の有識者による客観的評価を入れつつ、エビデンスが得られたものを未病ブランドとして認定しています。今後も、産業界と連携しながら、一気通貫を意識した取り組みを行っていきたいと考えています。

神奈川県と未病の発展

―神奈川県の未病の発展について、今後の展望を教えてください。

市町村が取り組む市町村の健康増進活動などに、未病コンセプトに関連する大学の知恵や企業の技術・サービスなどのツールの提供が、良い効果を生んでいると感じています。地域の健康課題解決や各人の未病改善の取組に、科学技術力を活用した産学公民連携の取組を展開していくことが大切であると考えています。

―最後に、神奈川県の取り組みの意義について教えてください。

神奈川県の取り組みは、ひとりひとりがいのち輝ける社会を目指しています。医療と未病の相互連携を理解し、ライフスタイルに合わせた健康維持・改善を促進することが重要です。未病改善を通じて、健康長寿社会の実現から未来社会的価値の創出を目指す神奈川県の取り組みは、今後も注目されることでしょう。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

 

国際シンポジウム「ME-BYOサミット神奈川2024」2024年11月7・8日開催
誰もが、その人らしく「いのち輝く」社会の実現に向けて
https://me-byo-summit2024-kanagawa.jp/

※1 マイME-BYOカルテ
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/fz7/cnt/f532715/p991437.html

※2 未病改善ヒーロー ミビョーマン
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cz6/me-byoman.html

※3 ME-BYO STYLE(未病スタイル)
https://www.instagram.com/mebyostyle/

この記事のリカバリ用語

  1. 慢性疲労症候群

  2. 日本疲労学会